3種混合・不活化ポリオワクチンの追加が推奨されました

ワクチンのスケジュールは変化しています

ワクチンのスケジュールって、なかなかわかりづらいものです。母子手帳のワクチン欄を見ても、その種類と数に圧倒されてしまい、結局いつ何を打てばいいのか検討もつかない…なんてことになりがちです。
また、近年は日本国内における病気の発生状況やワクチンに対する考え方の変化により、接種できるワクチンの種類が増えたり、スケジュール自体が変更されたりすることが増えてきています。
数年間で状況が大きく変わることも珍しくはなく、少し前のお兄ちゃん・お姉ちゃんの頃のワクチンの知識が通用しないことすらあります。

推奨スケジュールがアップデートされました

そんな中、2018年8月に日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュールがアップデートされました。*1

アップデートの内容を要約すると

となります。

元々、5-6歳時(小学校入学前の1年間)は、麻疹風疹(MR)ワクチンの2回目とおたふくかぜ(ムンプス)ワクチンの2回目を接種する時期ですが、そこにDPTと不活化ポリオが追加されています。
また、11-12歳時は2種混合(ジフテリア破傷風=DT)ワクチンを接種する時期ですが、そこに百日咳と不活化ポリオが追加されています。

なぜ百日咳とポリオが?

大まかにいうと、今回のアップデートには、百日咳とポリオに対する免疫を強化するという狙いがあると言えますが、なぜ百日咳とポリオがそれほど重要視されているのでしょうか?

それは、社会構造や疾患の流行状況の変化に伴い、百日咳とポリオに対する免疫の低下が問題となってきたためです。
近年の日本では、ワクチンの普及に伴って百日咳やポリオの頻度はかなり少なくなり、比較的珍しい病気と捉えられるようになっていました。

実際、国立感染症研究所のWebサイトでも、百日咳については

わが国における百日咳患者の届け出数(伝染病予防法では届出伝染病として全例報告されることになっていた)は、ワクチン開始前には10万例以上あり、その約10%が死亡していた。(…中略…)ワクチンの普及とともに患者の報告数は減少し、1971年には206例、1972年には269例と、この時期に、日本は世界で最も百日咳罹患率の低い国のひとつとなった。

のように記載されています。*2


ポリオについても

日本におけるポリオは、1940年代頃から全国各地で流行がみられ、1960年には北海道を中心に5,000名以上の患者が発生する大流行となった。そのため1961年にOPVを緊急輸入し、一斉に投与することによって流行は急速に終息した。引き続いて国産OPVが認可され、1963年からは国産OPVの2回投与による定期接種が行われて現在に至っている。1980年の1型ポリオの症例を最後に、その後は野生型ポリオウイルスによるポリオ麻痺症例は見られていない。その後に報告されているのは全てワクチン株由来の症例(ワクチン関連麻痺:VAPP, vaccine associated paralytic poliomyelitis)である。

とあります。*3

自然のブーストがかからなくなってきた

私たちのある病気に対する免疫は、その病気と接触することによってより強化されるという特徴があります。
これをブースター効果といいます。
百日咳やポリオがたくさん見られていた時代には、それらと自然に接触する機会も多く、いわば自然のブースター効果が得られていたため、年齢を重ねてもその病気に対する免疫能は落ちることなく、高く保たれていました。
しかし、病気そのものが減ってくると、生活の中でそれらと接触する機会も減少し、子供の頃にワクチンによって獲得した免疫能は歳を重ねるごとに次第に低下してきてしまいます。
実際に、2018年現在では、成人になって免疫能が落ち、百日咳にかかってしまうケースが増えていることが社会的にも問題となっています。*4
この問題に対処するために、自然の接触ではなく「ワクチンを使って」百日咳とポリオに対する免疫力を保ち、これらの流行を抑えることが今回の推奨追加の目的と考えられます。

推奨スケジュール通りにすることの問題は?

2018年時点では、今回推奨に加えられたDPTワクチンや不活化ポリオワクチンの接種は定期接種には含まれていないため、自治体から予診票が送られてくるわけではありませんし、接種にあたっては自己負担も発生してしまいます。
それでも、医学的な観点からは、やはり小児科学会の推奨通りに、上記のワクチンを接種することが望ましいと思います。
DPTワクチンや不活化ポリオワクチンは、以前は日本国内で普通に使用されていたもので、安全性や免疫をつける力については大きな問題がないことが分かっていますし、製造も以前と同様に国内で行われています。

4種混合ワクチンではダメ?

また、DPTワクチンと不活化ポリオワクチンを別々に接種するのではなく、DPTと不活化ポリオを混合した4種混合ワクチン(DPT-IPV)を接種することも可能です。
効果についてはほぼ変わらないのではないかと考えていますが、薬品の説明書と言える添付文書には、この追加接種に関する記載はなく、副反応などが起きた際などの補償の対象外となる可能性があります。
しかし、接種が1回にまとまることや自己負担金額がより少なく済むなどのメリットもあると考えています。